2017年4月22日土曜日

18歳、投票デビューは大統領選




 大統領選が二日後に迫った金曜日、ようやく娘のミツのところに投票カードが届きました。

 ミツはこの三月に18歳になったばかり。この大統領選が投票デビューです。必ず投票しようと去年から投票カードの申請に市役所に行っては「来年おいで」と追い返され、それでは来年と正月二日に出かけて行って登録を済ませ、なのにいつまでたっても投票カードが送られて来ない!
「こんなことでは、ミツがマリーヌ・ルペン(移民排斥、EU離脱を掲げる極右、国民戦線の女党首)に投票できないじゃないか!(これは、フランス人がよく使うアイロニーで、真意は「マリーヌ・ルペンを阻止する投票ができない」という意味です、念のため)」と悪態をついて、市役所に催促に行き「もうすぐ届く」と言われて待つこと数週間。やっと手にした投票カードです。

 さて、ミツが誰に投票するかは、クラスの注目するところとなりました。ミツのクラスはまだ18歳になっていない子も多く、なっている子の中でも選挙人登録に行ったのはミツ一人だったのです。
「フィヨンでしょ。フィヨンだ〜!」
 ちなみにうちの近所は伝統的に保守が強い地盤なので、周りを見回してもフィヨンに投票するという人が多い。なので「フィヨンでしょ」という予想は分からないでもありません。ミツは何も言わず、ニンマリ。そのためフィヨンとの噂が。
 しかし授業で大統領選が話題になったときにメランションの政策を良く知っていたことを目ざとく捉えた級友が、
「メランションだ。あたしたちを代表してメランションに投票してよ!」
 ミツの行っている高校は、ヌイイ市というブルジョワの町にありながら、隣のピュトー市の一部も学区に入っているので、シテ(郊外の団地)からも生徒が来る、珍しく社会的混合性のある学校。また第一学級(高2)になりコースが分かれたら、ミツの行った文系は、理系、社会・経済系と異なるタイプの生徒が集まっていて左翼的傾向が強い。今回のフランス大統領選で、アメリカにおけるサンダースの位置にあるメランション支持の生徒も当然いたということなのでしょう。

 さて当のミツは、最初は「マリーヌ・ルペンを阻止する」以外に、誰に投票したらよいか皆目見当がつかず困っていたのですが、いろいろ見聞きし、自分なりに投票先を決めたようです。話を聞くと、架空雇用スキャンダルで信用を失墜したフィヨン候補は論外。マクロン候補はなかなか政策を明らかにせず、イメージばかり先行の候補なのでNG。左翼統一候補予備選で好感を持ち、エコロジーや教育を重視する立場で社会党のアモン候補を選びました。

 ところがアモン候補は、選挙戦が進むに連れて支持が下降線をたどり、上位4候補に大きく水を開けられてしまいます。現政権(社会党)の不人気に足を引っ張られたばかりか、同じ社会党で予備選を争った右派のヴァルス(現首相)たちがアモンをほっぽり出して中道、独立で立候補したマクロンにつくという裏切りに会い、支持が急落。これを受け、テレビ討論で有権者の心をつかんだメランションに左翼支持者の票もかなり流れてしまったようです。

 このままアモンに投票するか、「コミュニストは嫌いだけど」メランションに入れるか、悩んでいました。「決選投票に左翼が残る道はこれしかない」。メランションが「コミュニスト」というのは、ネガキャン(私はコミュニストにネガティブなイメージを持っていませんが、一般的にはやっぱりネガキャンなのではないかと)を鵜呑みにしている感がありますが、18歳にして「戦略的投票」というのを考えるところは、やっぱりフランスの選挙文化は違うのかな、と思いました。一方、まだ選挙権のない15歳の弟は自分だったら「戦略的投票」ではなく自分の支持する候補に入れると持論を展開して、これもまたフランスの選挙文化は成熟しているなと思いました。なんせ自分が最初に選挙に行った頃なんて、今思うと、自分の投票がどういう意味を持つかなんて、あまり頭を使わず投票していましたからね。

 さあ、いよいよ明日が投票日。世論調査では、マクロン、ルペン、フィヨン、メランションの順番でマクロンが優勢となっていますが、FacebookTwitterの分析を元に、Brexitやアメリカ大統領選の結果、保守予備選でのフィヨンの勝利、左翼予備選でのアモンの勝利など、世論調査よりも早く予想したというFilterisは、ルペンは落ち目でフィヨンの方が上昇する勢いがある、マクロンは他の三候補よりもSNS上の動きを見るとダイナミックでない、すなわちスコアが低いと独自の結果を発表していました。
 しかし、木曜日、このタイミングで起こったシャンゼリゼのテロ事件は、明らかにルペン候補の有利に働いたようで、その後、Filterisはフィヨンとルペンの順位を入れ替えています。
 ルペンが決選投票に進むのをフィヨンが阻むなら良いですが、決選投票がルペン対フィヨンになるのは私としてはちょっと避けてもらいたいな…
 トランプ大統領を生んでしまったアメリカからは、「我々の轍を踏むな、メランションに投票せよ」というメッセージが続々届いていて、なにか心を動かされます。


 四半世紀住んでいても投票権のない外国人の私は、フランスでは政治的に赤ちゃん同然。そもそも赤ちゃんだったミツが初投票に出向くのを、感慨を持って送り出すことになるでしょう。


ミツの描いたモード画

0 件のコメント:

コメントを投稿