2013年3月22日金曜日

ピアノの先生に花束を



昨日21日は、休暇明け最初のピアノのレッスン日。

教室に入って行った私は、手に大きな白いバラの花束を持っていました。

‐ 先生(フランス語では単にアリナ、と名前を呼び捨てですが)、実は折り入ってお願いが…

実はその花束は今、もらったばかり。しかも三〇代のなかなか魅力的な男性からです。

いえいえ、何も色っぽい話ではないのです。たまたま仕事で昼に会うことになっていたところ、Facebookで私の誕生日と知った彼が、手持ち無沙汰もどうかと買って来てくれた、義理チョコのような花束です。

義理でもなんでも、私はとても嬉しかったのですが、しかしこれを家に持って帰るのは、ちょっと躊躇われました。誕生日に立派な花束を貰ってきては、夫が「誰にもらった?」と訊くことでしょう。もちろん、仕事でランチをしただれだれさんに貰いました、と真実を話してもよいのですが、まあ、ちょっとめんどくさい。だれだれさんとはほんとに何もないのですが、夫は男性というだけで基本、おもしろくない、しかもなんで誕生日にランチをして、花束なのか、と単純に疑うことは目に見えています。仕事の打ち合わせがたまたま誕生日に重なったのだし、彼が誕生日を知っていたのはFacebookが教えるからだし、すべて真実なのになんだか言い訳染みて聞こえます。

‐ 私、実は今日、誕生日で、
と切り出すと、
‐ あら、おめでとう、サオリ。偶然ね、私の娘も今日、誕生日なのよ。
‐ それじゃ、なおさら都合がいいです。先生、この花束、もらっていただけませんか? お嬢さんにお祝いに。

するとアリナ先生は、さすが私とほぼ同い年の既婚女性、事情はよく分かったとにんまり笑って
‐ おもしろいわね、サオリ、こういうお花もらうの、初めてじゃないのよ。
と話し出しました。

‐ ウクライナ人のヴィオレッタを知ってるでしょう?
この間の発表会でいっしょになった、先生のお気に入りの生徒さんです。
‐ 発表会の前に、彼女がうちに臨時レッスンに来たとき、花束を持っていたの。それでこれからバカンスに出るからと言って花をうちに置いていったのよ。その2週間後に、ヴィオレッタの夫が、というのは彼にも声楽を教えているの、その彼がうちに来たのよ。花はよくもってまだそこにあったの。それで私はとんでもないヘマをやったのよ。それはヴィオレッタが2週間前に置いてった花だと言っちゃったのね。後でヴィオレッタは、「あの花は誰に貰った?」って問い詰められて困っちゃったんですって。もう二度とあんなヘマはやらないわ。

若くて美人のヴィオレッタの花束の由来は、私のとは若干違いそうですが、これを聞いて私は、やはり夫の思考パターンは同じと悟り、花はおいていくことにして正解だったと思いました。

でもちょっともったいなかったし、くれた人にも悪い気がしたので、花を一本だけ引き抜いて、家に持って帰りました。

夜、ダンナが帰宅するとさっそく
‐ これは誰に貰ったの?
と訊きます。

一本だけになってるから、ホントのことを言ってもいいけど、やっぱりちょっと面倒だったので、
‐ ピアノの先生のアリナ。
‐ そりゃ親切だね。きみの誕生日を知ってたの?
‐ ええ、お嬢さんの誕生日と同じだからなのよ。

<おしまい>