すごく久しぶりにピアノのことを書きます。
ベートーベンの月光ソナタの第一楽章を、映画『去年マリエンバートで』のイメージで弾いてみました。
『去年マリエンバートで』は、ご存知のとおり、ブルジョワの男女の集うバカンス地のシャトー・ホテルで、女性に見知らぬ男が「去年、お会いしましたね」と言い寄る話。最初は知りません、覚えていません、と答える女性が、「あのときこうした、ああした、愛し合った」と男の話を聞くうちに、思い出すのか騙されるのか、その気になって男に連れ去られるという不思議なお話。監督のアラン・レネはメタフォリックな意味はないと言ったそうですが、いなくなった男女がどこかで平凡に暮らしているとも想像しがたく、私はあの男は死神だと思ったほうがしっくり来ました。
「月光」のタン・タ・タンと繰り返されるテーマも「葬送のテーマ」と言われることがあるらしい、死神の誘いを思わせます。そんなわけで、死神が見知らぬ男の姿をして女を誘いに来て「思い出せ、思い出せ」と迫り、女がだんだん不確かな記憶の底から男を思い出すような気がしてくる二人の会話、そして「思い出し」たときには死に連れ去られる、というお話を考えて弾きました。
そうしたら、 なんと
「私がいままで生徒に弾かせたなかで一番美しい演奏だった」
と、先生に褒められたので、 ちょっとビックリ、
嬉しくなってこれを書きました。
音楽はやはり自分なりの解釈をはっきり持って演奏することが大切なんだとあらためて思いました。