2015年12月10日木曜日

月光第一楽章と『去年マリエンバートで』

すごく久しぶりにピアノのことを書きます。 

ベートーベンの月光ソナタの第一楽章を、映画『去年マリエンバートで』のイメージで弾いてみました。 

『去年マリエンバートで』は、ご存知のとおり、ブルジョワの男女の集うバカンス地のシャトー・ホテルで、女性に見知らぬ男が「去年、お会いしましたね」と言い寄る話。最初は知りません、覚えていません、と答える女性が、「あのときこうした、ああした、愛し合った」と男の話を聞くうちに、思い出すのか騙されるのか、その気になって男に連れ去られるという不思議なお話。監督のアラン・レネはメタフォリックな意味はないと言ったそうですが、いなくなった男女がどこかで平凡に暮らしているとも想像しがたく、私はあの男は死神だと思ったほうがしっくり来ました。 

「月光」のタン・タ・タンと繰り返されるテーマも「葬送のテーマ」と言われることがあるらしい、死神の誘いを思わせます。そんなわけで、死神が見知らぬ男の姿をして女を誘いに来て「思い出せ、思い出せ」と迫り、女がだんだん不確かな記憶の底から男を思い出すような気がしてくる二人の会話、そして「思い出し」たときには死に連れ去られる、というお話を考えて弾きました。 

そうしたら、 なんと
「私がいままで生徒に弾かせたなかで一番美しい演奏だった」 
と、先生に褒められたので、 ちょっとビックリ、
嬉しくなってこれを書きました。 

音楽はやはり自分なりの解釈をはっきり持って演奏することが大切なんだとあらためて思いました。 

2 件のコメント:

  1. 大変参考になりました。なにせ音楽音痴だから、子供たちのピアノをどのように応援したらいいのか、分からないのですが、解釈をしっかり持って、思い浮かべるといいのですね。……ピアノはあのコンセルバトワールを続けてらっしゃるのですか? 懐かしいです。

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  2. そうそう、進歩はゆっくりなんですが、続けてだけはいるんです。もともとあまり素質に恵まれてなくて年齢も行っている私には、技術的には限界があるので、音楽をどう表現したいかを掘り下げることを考えようと心がけ始めました。本当は楽譜をきちんと分析して理解したりするべきなのですが、それには和声学の知識が必要だったりして敷居が高いです。でも、そこまで知識がなくても、多少自分勝手でも、イメージや物語があると、演奏で「言いたいこと」ができるので、演奏が通り一遍にならないと思うんです。これなら子どもでもできること。ぜひ勧めてあげてください。子どもはしかも技術的に飛躍的な進歩ができるので羨ましいです。

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