2017年3月6日月曜日

無い場所に届いた小包

今朝のこと ―———————
電話が鳴った。
どうせまたセールスだろうと思った私は、すぐに切るつもりで不機嫌に電話を取った。
   Mme NAKAJIMA ?
   ウィ〜。
私は警戒心でいっぱいになって、尻上がりに不機嫌な声を出す。
   アルジャンソン通り28番地にお住まいですか?
   いいえ、28番には住んでいませんよ。38bisに住んでいるんです。
早々に電話を切ろうとした私は続く相手の言葉に引き止められた。
   あなたに小包が届いているんです。
   28番にですか?
   ええ、私は28番の管理人なんです。
事情を一瞬で察した私は、間違って届いた小包を受け取って電話してくれた、他所の管理人さんに感謝の気持でいっぱいになり、さっきの不機嫌とは大逆転した声でそそくさと礼を言い、すぐ行くからと28番地のデジコードをメモした。
そして雨の中を、誰がどこから送ってきたのか分からない迷子の小包を取りに出かけた。
   電話番号が書いてあったからよかった。ノエルの前にも、うちの建物に住んでない人に小包が来たんだけど、電話番号がなかったから一ヶ月もここに置きっぱなしだった。
ポルトガル人らしい親切な管理人さんが渡してくれた包みを見ると、なんのことはない妹の筆跡で、「28bis」と書いてある。今の家に引っ越して今年で10年、何十回と小包を送ってくれている彼女が、またなんで間違えたものか…
それに28bisという住所は存在しないのだ。配達人はどこに預けたらいいかも分からず28番地に置いて行ってしまった。思えばまあ、よく届いたものだ。
 そんな冒険した小包の中を見ると、村上春樹の新刊だった。
「みんなから、あんまり遅れず読めると思うよ。」
送ってくれると、電話口で言っていたのを思い出した。日本から遠く離れている姉の時代遅れがこれ以上酷くならないようにと、彼女はよく自分が読み終わった本を送ってくれる…

 雨はまだ強く降っていたけれど、私はカフェに寄ってから帰ることにした。存在しないアドレスに届いた、ありきたりの届き方はしたくなかったらしい本が、どこか自宅でないところで開いてもらいたがっているような気がしたから。