20年フランスに住んでいても、フランスって違うなと、つくづく思うことがある。
木曜日、子どもの中学に保護者会に行ったら、12月までで産休に入る数学の先生の代理が未だ決まらないという。娘たちのクラスは中学最終学年なので、年度末に中卒免状試験を控えているのに、と教室はざわつく。
「だから、大事なところは全部12月までに終えられるよう、私は努力しているんです。スピードがちょっと早いかもしれません」と先生。
「困りますよ。試験のある6月までに忘れちゃいますよ」親たちは頭を抱える。
フランスのシステムというのは融通が利かなくて、校内の先生で不在の先生のクラスをちょこっと負担する、というわけにいかない。労働法をきちんと守るので契約にない仕事をさせられないから、教育委員会が代理を任命しないことには、隣のクラスの数学の先生は自分の受け持ちしか教えてくれず、教師不在のまま数ヶ月が過ぎたりする。代理を務める先生は、教育委員会の用意したリストに予め登録していなければならない。国民教育省は、代理教員を用意するコストを削るものだから、いざというときに人が足りないのだそうだ。これはフランスで公立校が嫌われる一番大きな理由でもある。
それでも、突発的な病欠とちがって産休はずいぶん前から分かっているから、今から来年1月までには代理が見つかるだろうと思っていたのは、どうも私くらいのものだったらしい。
「教育委員会に全員の連名で手紙を書く」
「校長から言ってもらう」
「校長はなにもできないでしょう」
「でも両方やったほうがいいですよ」
「引退したS先生に戻ってもらったら?」
「S先生が教育委員会の求人に応じないと」
と次々に発言が飛び出す。
まだ保護者代表も選出していないのに、親分格のお父さんが、担当科目を説明しに来た英語教員を扉のところに立たせたまま、黒板に大きく自分の電話番号を書き、
「月曜日の夜に電話してください。それまでに校長に会って来ますから」と告げた。
外に出たあとも紛糾はおさまらず、「月曜の夜に電話。火曜の朝8時に校門の前に集まり、みんなで校長を問いただすと同時に教育委員会宛の手紙にサインする」と決定。
こういう、抗議するときのまとまりの早いこと。そして誰も、産休に出る先生のことを悪く言わない。悪口を言われたのは、12月でいなくなることが分かっている教師を最終学年に割り当てた校長だけだった。
それにしても、産休教員の代理が見つからないなんていう不手際もフランスらしいかもしれない。
フランスで革命が起こるのは、システムが硬直しているため、ぶち壊さないとならないからで、その点、イギリスはもっと柔軟なので暴力的な革命が起きなかったのだと聞いたことがあるが、産休代理をめぐるシステムの融通の効かなさと保護者たちの抗議のオーガナイズの良さは、なにかそれを思い出させた。
もう一つ、槍玉に上がったのは給食。今年、予算の都合かなにか、業者が変わって質が落ちたらしい。食器洗い機も故障したままなので使い捨ての紙皿、紙コップなのも評判が悪い。うちの子たちもずいぶんぶうぶう言っていたが、どこの家庭でもそうらしく、お父さんお母さんたちが口々に「給食のまずいの、なんとかならないんですか」と言う。
「食べてないっていうじゃありませんか。給食費、払いませんよ」
「給食の業者を変えないなら、うちも給食費は払いません」
「そうだ、そうだ、ボイコットだ」
翌日、娘が帰って来て言うには、
「どこのうちも給食費払わないんだって。うちも節約したいなら払わなくていいと思うよ」。