2012年10月11日木曜日
ハロウィーンのかぶ
ハロウィーンのお祭りが近づいてきました。今日はハロウィーンにちなんで、かぶのお話です。
(なぜハロウィーンにかぶなのかがすぐ知りたい方はお話を飛ばして次のパラグラフへお先にどうぞ)
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むかしむかし、おじいさんとおばあさんが暮らしていました。暮らしているうちに、セルジュを生みました。セルジュには長い耳と、頭の代わりにかぶがありました。セルジュは大きく、それは大きくなりました……。
おじいさんは耳を引っ張りました。うんとこしょ、どっこいしょ、でも世の中に引っ張り出してやることができません。そこで、おじいさんはおばあさんを呼びました。
おばあさんはおじいさんを、おじいさんはかぶをつかみ、うんとこしょ、どっこいしょ、でも引っ張り出すことができません。おばあさんは公爵夫人のおばさんを呼びました。
おばさんはおばあさんを、おばあさんはおじいさんを、おじいさんはかぶをつかみ、うんとこしょ、どっこいしょ、でも世の中に引っ張り出してやることができません。そこで公爵夫人は名付け親の将軍を呼びました。
名付け親の将軍はおばさんを、おばさんはおばあさんを、おばあさんはおじいさんを、おじいさんはかぶをつかみ、うんとこしょ、どっこいしょ、でも引っ張り出すことができません。おじいさんはがまんできなくなりました。そして、娘を金持ちの商人のところにお嫁にやりました。おじいさんは百ルーブリ札を何枚も持っている商人を呼びました。
商人は名付け親を、名付け親はおばさんを、おばさんはおばあさんを、おばあさんはおじいさんをおじいさんはかぶをつかみ、うんとこしょ、どっこいしょ、やっとかぶの頭を世の中に引っ張り出してやりました。
それでセルジュは五等文官になりましたとさ。
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これはチェーホフの短編、「おおきなかぶ」の全文です。冒頭に「子供語からの翻訳」という但し書き。沼野充義先生による新訳で集英社から出ている『チェーホフ短編集』に載っていますので、気に入った方はご本のほうもぜひどうぞ。読みやすくて楽しいきれいな訳文です。
さて、なぜハロウィーンにかぶかというと、
「言い伝えによると、むかし、アイルランドにジャックというおじいさんがいてね、あんまりケチでずるいやつだったんで、死んでも天国に入れてもらえなかった。そこで地獄へ行ったんだけど、悪魔にもきらわれて追い返されてしまった。
しかたがないのでジャックは、悪魔がくれた熱くて赤い炭火を、くりぬいたかぶに入れて、暗い道を照らして歩いた。いまでもその明かり……ランタンを持って、この世とあの世の間をさまよい歩いているというよ」
なんだそうです。
何年か前にハロウィーン絵本を訳したのですが、この本によると、これがハロウィーンのかぼちゃのランタンの始まりで、
「ただ、かぶのかわりに使うようになったのがかぼちゃなのさ」
ということだそうです。
かぼちゃの謂れを聞こうと思ってるのに「かぶの代わりに」って、そりゃちょっとないんでは、と思ったのですが……
でもハロウィーンですからね。かぶがかぼちゃに化けたのか、かぼちゃがかぶに化けたのか、さてどちらでしょう?
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季節もので、絵本ナビが『ハロウィーンってなあに?』の宣伝をしてくれています。このページに行くと、なんと全文読めるそうです。
クリステル・デモワノー著『ハロウィーンってなあに?』
全文読ませちゃっても宣伝になるというのは、絵本ならではですね。太っ腹。
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すごい! 絵本ナビに、みんなの声が、いっぱいだ。
返信削除大きなカブ、小学校一年生の教科書に出てくるあれがチェーホフだったとは、そしてそれが、そんな宗教的な話で、ハロウィーンの原点だったとはびっくりです。色々なことを学びました。カブって、欧州では人参とともに昔から食べられている野菜の一つなんですってね。ほら、ジャガイモなどは南米から来たんでしょ?でもカブはむかーし昔からあるんですってね。日本にいるころはあまり好きでなかったけれど、こちらに来てからは、ローストにして食べると甘みが引き立って、しょっちゅう食べるほどの好物となりました。
返信削除ちょっと、ちょっと誤解が…
削除小学校一年生の教科書に出てくるのはロシア(だかウクライナ)の民話で、
チェーホフがそれをパロディにしたのが、ここに引用したお話です。
で、「おおきなかぶ」とハロウィーンのかぶを、勝手に結びつけたのは私なので、「大きなカブ」はハロウィーンの元になった宗教話ではないんです。
分かってるかもしれないけど、私のせいで間違った知識を持ってしまったら申し訳ないので、念のため訂正しときますね。